〜労働契約の考え方〜

Tなぜ労働契約が大切なのか
 戦後わが国の労働法制は、その必要性から「○○をしてはいけない」という禁止をうたった規制的側面が強くありました。ところがその後、業務や雇用形態の多様化や変化が急速に進み、その管理の基本となる労働法制も民事的な契約の考え方を取り入れざるを得なくなってきました。つまり、契約だから当事者同士が個々の立場で、適正な関係と内容で合意しなければならないという考え方です。

 しかし雇用形態が余りにも多様であるため紛争やトラブルにまで発展する例も少なくありません。そこで新時代に対応するため「労働契約法」の新設が検討されています。  大事なことは、日常の適正な労務管理です。労働契約をめぐって具体的な事例で見ていきましょう。

U届出のない時間外労働について
Q1.届出のない時間外労働についても、時間外労働手当を支給しなければなりませんか?
A1.残業命令が出ているわけでもなく、また届出もない残業であっても、上司の黙認や黙示があるときや残業を本人の裁量に委ねている場合は、時間外労働とみなされ時間外労働手当の対象になります。
 また、届出や命令がなくとも、客観的にみて所定労働時間内で処理しきれない仕事については、時間外割増手当の支給が必要になります。しかしその一方で、使用者が具体的な残業禁止命令を発しているのに、これに反して業務を行った場合には、これを労働時間と解することは困難という判例があります。

V有期雇用契約者の雇い止め
Q2.有期雇用契約の社員について契約更新を繰り返した場合、雇い止めができますか? また雇用契約の途中で解雇することができますか?
A2.有期雇用契約の契約期限が終了すれば雇い止めとなって退職することになりますが、雇い止めをしないまま契約更新を何回も繰り返すか、あるいは更新手続きをしなくても更新の何回分も雇用延長をしてきた経緯があれば、その契約は雇用期間のない雇用契約に変質するものとされます。それは、更新を繰り返すうちに次もまた契約することができるという期待感を本人に抱かせるからです。
 従って、このように有期契約であっても雇用期間の定めのない契約になるとすれば、使用者が一方的に契約を打ち切ることは雇い止めではなく解雇になります。解雇であれば、当然「正当な事由」がなければ成立しないし、「30日以上前の解雇予告」も必要になってきます。
 なお雇用期間の途中で解雇することは、民法第628条によって、やむを得ない事情がない限りできません。その場合、仮に就業規則や労働契約、個別契約で途中解雇に関する定めが決められていたとしても認められません。

Wリストラの要件
Q3.リストラによる整理雇用を行うときは、どのような要件と手順が必要ですか?
A3.従業員の側に解雇の原因があるのではなく、使用者の側に業務上の必要性から人員削減を行う「整理雇用」の場合は、欠くことのできない以下のような要件があります。
@ 人員削減が本当に必要か
人員削減の必要性が客観的にどこまであるか、この必要性がない場合は権利の濫用、不当解雇になります。
A 回避努力をおこなったか
整理解雇に至るまでに、使用者としてどのような努力をして整理解雇を回避しようとしたか、配置転換の試みをしたかなどその実態が問題となります。
B 人選に合理性はあるか
まず、業務の再建に欠くべからざる人物を最優先して残すことは大切です。次に就労状態の悪い人(就業規則違反や遅刻欠勤など)から、また判断基準が難しいのですが、一定の根拠に基づいて業務成績の悪い人から整理解雇を指名するなどの合理性が求められます。
C 解雇手続きの情報開示等をしたか
会社としての整理解雇に際しての理由、回避措置の内容、規模、程度、解雇基準、解雇要件などについて全従業員に明らかにするとともに、誠実な協議を行うことが求められます。

X高齢者だけの賃金減額
Q4.高齢者のみの賃金減額は可能ですか?
A4.若年や中堅層の賃金減額がないにもかかわらず、高齢者の賃金だけを減額するには、次の条件を満たさなければいけません。
@ 代償措置がある
定年年齢の引き上げといった、しかるべき代償措置があるかどうか。
A 不利益の程度が大きくない
賃金の減額幅の大きさが問題となります。
B 職務を軽減し、責任を軽くすること
高齢者の賃金の特性は「仕事に見合った賃金」ということでしょう。そこで、賃金が減額されてもこれに相応した労働の減少が認められるのであれば、全体的にみた実質的な不利益は小さいと考えられるでしょう。


 《参考:検討されている「労働契約法」》
 従来、労働基準法を中心に、必要に応じていくつもの労働関係法が制定されてきましたが、今、労働契約をテーマに時代に即応した「労働契約法」の新設が検討されています。厚生労働省が中心となって、日本経団連や連合の代表を含めた審議会で審議されています。
   注目されるポイントは次のとおりです。
・解雇に関するルールの明確化
・有期労働契約をめぐるルールの明確化
・時間外労働の削減(時間外割増賃金の引き上げ)
・解雇の金銭的解決
・出向や転勤などに関するルールの明確化
・自立的な働きをする者の範囲の拡大   など




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